【講義概要】
近現代の規範的政治理論(2)-政治社会における善と正義-
ついで、ベンサムの功利主義を継承しつつ、大きな質的転換をなしたJ.S.ミルの理論を取り上げ、さらにグリーンやバーカーらのイギリス理想主義の政治哲学が功利や快楽に代えて人格や自己実現を政治共同体の目的としていったことの意味を考えてみる。一方、今世紀のアメリカ政治学はこれらの規範的政治論理の流れとは違って、政治学の経験科学化を追求してきた。ベントレー、メリアム、ラスウェルからイーストン、ドイッチュに到る政治学者がそうである。ここではとくにイーストンを取り上げ、政治学を経験的事実の領域に限定し、複雑な政治行動を説明する一般理論の構築を目指す体系分析の意義と問題を考察する。このような、いわゆる行動科学としての政治学に対し、1960年代の後半には脱行動革命と呼ばれる激しい批判が生じ、1970年代には規範的政治理論の復権を志向するロールズ、ノジック、ドゥオーキンらの著作が次々に公刊されていった。ここでは、功利主義を批判しつつ、自由主義と平等主義の調和を図ろうとするロールズの正義論を取り上げ、その意義と問題を考えてみる。なお、この規範的政治理論の講義に関連して、「政治学1」の場合と同じであるが、国際政治における価値観(文明)の衝突についても取り上げる。現代文明の基礎は近代西洋文明であるが、それは近代西洋文明が生み出した科学・資本主義・民主主義・自由平等というような形式や価値が高い普遍性・妥当性を持っているからに他ならない。もちろんそれはいまだ完璧なものではなく、過去に数々の失敗を犯した。この過ちを正し、現代文明の普遍性をさらに高めるのが我々の重大な責務である。ところが、この西洋的な価値観に対立・挑戦してくるのが、イスラム圏であり、あるいは中国・ロシア・北朝鮮である。彼らは我々には我々の政治・宗教・伝統があるという言い方を好むが、問題は新しい普遍性を作り出し、それによって近現代西洋文明を乗り越えようとしているとは評価できないことである。ここに現代文明の深い危機が宿る。この問題を文明の普遍性と伝統という観点からも考えてみたい。
【学習到達目標】
国家や社会が成り立つ根本的な規範について原理的にーこの場合は概念を行使してー考えることの意義や面白さを理解してもらうことを目的としている。物事を原理的かつ論理的に思考する習慣や能力を養ってもらえればと思う。
【事前準備学習】
テキストには一応目を通しておくこと。また広く哲学・文学・歴史などの古典に親しみ、新聞やニュースはよくチェックし、知見や教養を高めておくこと。基礎的な知識・思考力が不足していると、授業を理解できないし、興味もわかないであろう。
【教材】
※指定図書は担当教員が、学生が必読すべきものとして指定する図書のことです。
図書は図書館に置いてあり、1週間借りることができます。(一部貸出不可の図書もあります。)
教科書 | 『西洋政治理論史』 藤原保信 早稲田大学出版部 1985 『20世紀の政治理論』 藤原保信 岩波書店 1991 『西洋政治理論史』 藤原・飯島編 新評論 1995 |
参考書 | -参考書は、登録されていません。- |
指定図書 | -指定図書は、登録されていません。- |
【評価方法】
小テスト30%、平常点20%、試験50%
【講義テーマ】
回数 | テーマ | テーマURL |
1 | 自然権と功利主義-人間・規範・国家 | |
2 | 功利主義の転回-ミルの場合 | |
3 | 近代の政治的理想主義-ミルの民主主義論をめぐって | |
4 | 近代の政治的理想主義-グリーンとバーカー | |
5 | 近代の政治的理想主義-バーカー | |
6 | 近代の政治的理想主義の特徴と意義-善と正義 | |
7 | 近代の政治的理想主義の特徴と意義-国家の概念 | |
8 | アメリカ政治学の挑戦-その一般的特徴 | |
9 | アメリカ政治学の挑戦-イーストンを中心 | |
10 | 規範的政治理論の復権 | |
11 | 規範的政治理論の復権-ロールズを中心に | |
12 | 規範的政治理論の復権-ロールズの正義論の特徴と問題 | |
13 | 現代における政治的規範理論はどういう形をとるか | |
14 | いわゆる文明の衝突と規範的政治理論 | |
15 | 授業の総括 | |
16 | 定期試験期間 | |