【講義概要】
近年、行政による様々な活動は、国民・住民が、人として尊重された人間らしい生活を送る上で欠かすことのできないものとなっている。例えば、警察や消防などの権力的な内容をもつ行政活動、上下水道の利用、保健所による妊産婦指導などの非権力的な行政活動などをみてもそのことは分かる。さらに、近年は、国民・住民の要求の多様化、財政上の問題を踏まえて、建築確認や保育などに見られるように、「民間による行政」も行われてきている。
このような多様かつ国民生活にとって不可欠な行政活動は、条理上、法律による行政の原理のもとで行われることが想定されており、担当する行政機関としても、それを無視しながら行政活動を行うことは、建前としては少なくともありえない。しかしながら現実には、法の多義的内容により、さらに事実認定、裁量判断などにおける認識の違いなどから、国民住民が期待していない法の適用がされたり、期待している法の適用がされなかったり、という場面もありうる。その結果として、国民や住民の側に、権利侵害や損失・損害が生まれるということも、現実に生起している。
かかる行政の活動への不満に対しては、行政活動の持つ公益性その他の理由により、民法や民事訴訟法といった民事上の救済手段以外に、特別な救済手段が設けられてきた。 行政法学では、行政活動(不作為を含む)に不満がある場合に、それを救済する手段を「行政救済法」としており、行政に関する法を認識する上で重要な位置づけを与えている。
本講義ではこの行政救済法のうち、損失補償制度および国家賠償制度を中心に、金銭補償を核とした国家補償制度について学ぶことを目的とする。
【学習到達目標】
国家補償制度について、行政争訟制度との違いを踏まえ、具体的に説明できるようになる。特に、損失補償制度については、その意義、根拠、要件、補償内容等に関して、国家賠償制度については、民事法との違い、1条責任、2条責任に関するそれぞれの要件、規制権限不行使の責任、3条責任、そして救済の谷間の問題に関して、判例理論を踏まえて説明できるようになる。
【履修上の注意】
・行政法総論1、行政法総論2、憲法関係科目、民法、民事訴訟法を履修していることが好ましい。
・行政救済法2についても、行政救済法全体を理解するため、履修されたい。
・六法(小さいものでよい)を持ってくる。
【事前準備学習】
・ほぼ毎時間配布するレジュメに目を通しておくこと。
・教科書の該当部分、およびそこで指摘される判例に目を通すこと。
【教材】
※指定図書は担当教員が、学生が必読すべきものとして指定する図書のことです。
図書は図書館に置いてあり、1週間借りることができます。(一部貸出不可の図書もあります。)
教科書 | 『新・基本行政法』 村上武則・横山信二 有信堂 2016 |
参考書 | 『行政判例百選1・2〔第6版〕』 宇賀克也・交告尚史・山本隆司 有斐閣 2012 『判例から考える行政救済法』 岡田正則・榊原秀訓・本多滝夫 日本評論社 2014 |
指定図書 | -指定図書は、登録されていません。- |
【講義テーマ】
回数 | テーマ | テーマURL |
1 | 講義に入る前に、行政救済法・国家補償概説 | |
2 | 損失補償(1) 損失補償の概念・法的根拠 | |
3 | 損失補償(2) 損失補償の要件 | |
4 | 損失補償(3) 損失補償の内容・手続 | |
5 | 損失補償(4) 損失補償の具体的事案(破壊消防等) | |
6 | 国家賠償制度概説、公務員の不法行為責任 | |
7 | 国家賠償法1条(1) 「公権力の行使」 「公務員」「その職務を行うについて」 | |
8 | 国家賠償法1条(2) 違法性、故意過失 | |
9 | 国家賠償法1条(3) 規制権限の不行使 | |
10 | 国家賠償法1条(4) 立法権・司法権と国家賠償 | |
11 | 国家賠償法2条(1) 2条責任の意義 | |
12 | 国家賠償法2条(2) 要件 | |
13 | 国家賠償法2条(3) 河川管理問題 | |
14 | 国家賠償法3条~6条 | |
15 | 国家補償の谷間の救済 | |
16 | 定期試験期間 | |