【講義概要】
暴力による支配が行われている組織と法治国家とは、一見してわかる点の他に、どこが違うのでしょうか。決定的に違うのは、法治国家では理由なく危害を加えられない権利が守られていることです。どのような秩序があり、政治が行われれば、あなたの権利が守られるのでしょうか。それは、あなたや私の生命身体や権利を守ることを責務とする、他のいかなる組織よりもはるかに強力な国家が成立し、その国家がもっぱら、国民であるあなたの権利を守るために権力を行使する。こういう統治が行われる場合です。でも、何が国民の利益になることなのか。複雑な問題の場合、それは人によって判断が異なりえます。その時、何が真の利益かを明らかにし、国家がいかに振る舞うべきかを決定するのが、法の役割です。したがって、国民が主権を持つ国家、つまり民主政の国家で、憲法をはじめとする法による統治、つまり法治が行われること、これがあなたの権利や安全を保障するのです。
この理屈とその背景や構造がわかると、法学は何のために勉強するのか、どうすれば効率的に学べるのか、法学の諸分野はそれぞれ法がこのような機能を持つためにどのような役割を果たしているのか、が見えてきて、法学学習のコツもわかってきます。すると、日々の学習が楽しくなって、もっと知りたいと思うようになります。こうして力がついてくると、具体的な社会問題を法律の問題として理解し、組み立て、解いていくことができるようになります。すると、政治や法、その他、公共の世界の仕組みがどんどんと見えてきて、公共圏が結局、あなたの安全と自由を守るためにあることが実感できるようになることでしょう。
【学習到達目標】
立憲民主制国家における法の存在意義が理解できること。
法という公共制度と正義という公共的価値との関係が説明できるようになること。
法の一般理論、規範的法学(実定法学)、および正義論(法価値論)という3分野の基本的な論点、およびその相互関係の理解、および法学を効率的に学ぶ視座の会得。
法と政治や倫理のかかわりなど、法をめぐるさまざまな問題について根本的総合的な視点から考察する力が身につくこと。
【履修上の注意】
法哲学は一見抽象的な議論に終始するように見えますが、現実の歴史社会における法を対象とするものですから、実定法の基礎科目はもちろん、法実務、そして法や政治の仕組みや歴史について受講しておくことが望ましいです。
【事前準備学習】
法に関わる事件、とくに司法に関わる記事に目を通すようにして、今どのような事件が法をめぐって起こっているか、そしてそれがどのようにして解決されようとしているのか、気をつけるようにしましょう。
【教材】
※指定図書は担当教員が、学生が必読すべきものとして指定する図書のことです。
図書は図書館に置いてあり、1週間借りることができます。(一部貸出不可の図書もあります。)
教科書 | 必要に応じてプリント教材を配布します。その他、開講時に指示します。 |
参考書 | 『法曹の倫理 2.1版』 森際康友・編著 名古屋大学出版会 2015 開講時に指定します。 |
指定図書 | -指定図書は、登録されていません。- |
【評価方法】
(1) 平常点 30%
(2) 定期試験もしくはレポート 70%
【講義テーマ】
回数 | テーマ | テーマURL |
1 | 授業方法の説明、入門講義: 権力とは? | |
2 | 近代国家とは?あるいは、私たちはチンパンジーとどこが違うか? | |
3 | 近代法の機能と構造。法律の世界と掟の世界、どこが違う? | |
4 | 実定法の諸分野 | |
5 | 本当の自分とは?市民は私人であり、公民でもある。 | |
6 | 公私の区別 | |
7 | 正義とは何か?日本的正義とは? | |
8 | 民主制と正義 | |
9 | 正義・公権力・法 | |
10 | 悪法もまた法か?近代法をめぐるいくつかの難問 | |
11 | 法システム論: 立法・行政・司法のあるべき姿 | |
12 | 法解釈とは何か | |
13 | 自由民主制下で、自由はみんなのものたり得るか? | |
14 | 法学方法論、あるいは、要領のよい法学学習の方法 | |
15 | まとめ | |
16 | 試験 | |