【講義概要】
ヨーロッパ中世社会は十字軍遠征に始まる商業の復活によって、当時最も進んだ文明を享受するアラブ・イスラム世界と接触し、古典古代の知識とともに高度な科学思想や数学さらには市場経済の知識や商業実践を学ぶ機会を得、イタリアを中心にルネッサンスを開花させた。とりわけ高度な数理的思考法に基づく実践的な帳簿記帳が導入され、それによって北イタリア諸都市において高度な経済計算に基づく市場場経済システムが発展し、このシステムは地中海世界を超えてライン川を遡り、ネーデルランドからイングランド南部にまで達するヨーロッパ大の中世世界経済システムにまで発展していくことになる。
このような地中海世界の経済発展は、イベリア半島のポルトガル、スペインにいち早く海外進出の機会を与えた。こうして15世紀初めから「地理上の発見」の時代が始まり、ポルトガル、スペインによる世界市場の分割がなされ、アジアや新大陸での植民地経営が開始された。その後、北西ヨーロッパに最初の主権国民国家オランダの誕生と共に資本主義世界経済システムが成立することになった。
地中海世界においてルネサンスに呼応して発展した中世世界経済は、地域、国家のそれぞれの地理的政治的位置の相違から厳しい利害対立を顕在化させることになった。このような利害対立の顕在化に反応し、ドイツの普遍的利益を信仰の形で表明したのがルターであった。ルターはドイツ人とイタリア人を異なる国家に帰属する国民と認識し、身体を持った人間の利害対立を信仰上の問題から解放する道を開くことになった。ルターの宗教改革は神の恩寵による個人の信仰を強調することによって、自由意志を発揮する自立した人格を確立したと言える。
以上のヨーロッパ史を前提にアメリカはそれぞれの信仰を持つ主権国家の国民が移民することによって成立することになった。プロテスタント、国教徒、カトリックなどの様々な宗派の人々が、独立戦争、南北戦争を経て、近代国民国家アメリカの北部ピューリタンを中心とするアイデンティティWASPが確立されることになる。資本主義と宗教の葛藤の歴史と言える。
【学習到達目標】
ヨーロッパ近代社会がルネサンスと宗教改革によって個人の自由意志が解放され、自立した個人が確立することによって生まれたことを確認する。さらに、ヨーロッパ文明がアメリカに移植され、個人の自由意志の発揮は功利主義的な個人主義に発展していったことをアメリカ史の展開の中から理解する。
ヨーロッパで生まれたプロテスタンティズムの多様性を理解することを通じて、本学の建学の精神、「敬神愛人」がメソジスト宗派によっていかに理解されてきたかについて学び、その普遍的意義について学ぶことを目指す。
【履修上の注意】
授業では毎回、ドイツ公共放送のテレビニュースを10分間視聴し、世界がいかにグローバリゼーションにさらされているかを理解するように努める。その上で、毎回小テストを行い各自の理解度を確認しつつ授業を進めていく予定である。小テストは次回に学生の良い答案を具体的に解説し、授業を理解を高めることを目指す。後半の授業で、履修生に関連するテーマを与え、30分程度の発表を行う。最終的に、発表したテーマを4000字のレポートにまとめて提出してもらう予定である。
【事前準備学習】
ヨーロッパにおけるルネサンスと宗教改革についての知識を事前に学んでおくことが必要である。その上で、ポルトガル、スペインに始まる世界進出とアメリカ国家の成立、宗教と資本主義経済の関係等を学習するので列強の植民地支配、アメリカ独立戦争、南北戦争、アメリカの宗派(セクト)についてあらかじめ調べておくこと。
【教材】
※指定図書は担当教員が、学生が必読すべきものとして指定する図書のことです。
図書は図書館に置いてあり、1週間借りることができます。(一部貸出不可の図書もあります。)
教科書 | -教科書は、登録されていません。- |
参考書 | 『アメリカ経済史 Ⅰ』 鈴木圭介編 東京大学出版会 1988年 『アメリカ経済史 Ⅱ』 鈴木圭介 東京大学出版会 1988年 『図説大航海時代』 増田義郎 河出書房新社 2008年 『植民地時代アメリカの宗教思想』 増井志津代 上智大学出版会 2006年 |
指定図書 | 『近現代(大学で学ぶ西洋史)』 小山哲 [ほか] 編著 ミネルヴァ書房 2011.4 『古代・中世 古代・中世(大学で学ぶ西洋史)』 服部良久, 南川高志, 山辺規子編著 ミネルヴァ書房 2006.8 |
【評価方法】
小テスト、口頭発表、レポート、さらに授業態度を含めて総合的に評価する。
【講義テーマ】
回数 | テーマ | テーマURL |
1 | 十次軍遠征と商業の復活 | |
2 | アラブ・イスラム文明とルネッサンスの意義 | |
3 | 宗教改革とオスマン・トルコの進出 | |
4 | 列強のアメリカ進出とイギリスの覇権 | |
5 | 独立戦争と連邦国家の形成 | |
6 | アメリカ西部の発展とジャクソンの民主主義 | |
7 | 南北戦争と北部ピューリタンの意義 | |
8 | アメリカの経済発展と宗教覚醒運動 | |
9 | アメリカ独占形成期の人間類型 カーネギーとモルガン | |
10 | 大恐慌とアメリカの挫折 | |
11 | 冷戦とアメリカ人 | |
12 | 現代資本主義とアメリカ人―市場経済信仰の行方 | |
13 | 学生による報告:「アメリカ植民地の発展と宗教思想」と討論 | |
14 | 学生による報告:「南北戦争と宗教対立」と討論 | |
15 | 学生による報告:「20世紀アメリカと宗教」と討論 | |
16 | 定期試験期間 | |