【講義概要】
日本の思想-その本質、および伝統と欧化-
この講義は二部構成とする。第一部(春学期)は日本の伝統の中核、日本人の精神の本質にあるものはなにかについて考察する。まず最初に日本的とか日本人好みと言われる場合のイメージについて考えてみよう。次に丸山真男の日本ファシズム・軍国主義論を取り上げ、丸山が日本人の精神性についてどう考えていたかを見たあと、日本の代表的な文学作品や国体思想および武士道について検討する。あわせて、もともと外来思想であるが、日本の伝統の一部になった儒教や仏教についても考えてみよう。最後に、日本の地理・環境・風土と民族の成り立ちの特質を検討し、津田左右吉の日本思想史研究を手がかりとしながら、日本的で普遍的な原理を構想することが可能かどうか述べて見ようと思う。
第二部(秋学期)は明治維新前後における日本近代思想の形成について考察する。まず、幕末維新期における対外意識の問題を取り上げ、この期の日本の対外意識には国際関係における規範という観念がある程度成立するもののとくに東アジアに対しては長続きせず、力の論理に傾斜してゆくが、それはなぜなのか論ずる。次に福沢・加藤らの明治啓蒙思想を取り上げ、啓蒙とはなにか、そして彼らの天賦人権論・自然観・人間観・政治観などを従来の儒教的なそれとの差異と連続性という観点から考察する。また、福沢の文明論を紹介し、西洋文明の光と影、国家と普遍的文明のはざまで彼がどのように苦悩し、選択をなしたか考えてみる。続いて、植木・中江・馬場らの自由民権思想を取り上げる。彼らは天賦人権論を継承しつつ、自由権利のさらなる拡大をめざしたものであるが、その意義と問題について論ずる。維新の改革もようやく一段落した明治二十年代になると、徳富の平民主義、陸の国民主義、志賀や三宅らの国粋主義が出現してくる。これらは啓蒙や民権の思想が抽象的・概念的性格を持つのに対し、より生産や生活、風土や歴史を重視するという特徴があるが、この思想の意味について考える。第一部、第二部いずれを履修しても単位を認定する。「講義・テーマ」はとりあえず第一部の15回分を示す。
【学習到達目標】
日本精神についてはとかく誤解が多いので、その本質についてよく認識理解するとともに、伝統と欧化を巡って日本はいかなる形で普遍的文明に貢献できるかを考えてみる。
【履修上の注意】
授業は静粛・真剣に聴くこと。私語・遅刻・早退は厳禁。
【事前準備学習】
参考文献には一応目を通しておいてほしい。また、広く歴史・文学・哲学などの古典を読み、知識や教養、論理的思考能力を養っておくことは必須。これらが不足していると、授業を理解できないし、面白くもないはず。
【教材】
※指定図書は担当教員が、学生が必読すべきものとして指定する図書のことです。
図書は図書館に置いてあり、1週間借りることができます。(一部貸出不可の図書もあります。)
教科書 | -教科書は、登録されていません。- |
参考書 | 『現代政治の思想と行動』 丸山真男 未来社 1962 『忠誠と反逆 : 転形期日本の精神史的位相』 丸山真男 筑摩書房 1992 『文学に現はれたる国民思想の研究 (全四巻)』 津田左右吉 岩波書店 1966 |
指定図書 | -指定図書は、登録されていません。- |
【評価方法】
小テスト30%、授業態度20%、試験50%を目安に総合的に評価する。
【講義テーマ】
回数 | テーマ | テーマURL |
1 | はじめに | |
2 | 日本的・日本人好みとは | |
3 | 同上(文学や芸術などを例に) | |
4 | 同上(丸山真男のファシズム論を読む) | |
5 | 同上(日本ファシズムの特徴と伝統の関連) | |
6 | 記紀・詩歌 | |
7 | 王朝文学 | |
8 | 国体思想・武士道 | |
9 | 仏教・儒教 | |
10 | 日本人の歴史的特性-風土と民族の成り立ち | |
11 | 同上(志賀重昂『日本景論』を読む) | |
12 | 同上(津田左右吉の業績を手がかりに) | |
13 | 日本的原理は可能か-伝統と欧化 | |
14 | 日本的原理を未来に生かそう | |
15 | 授業の総括 | |
16 | 定期試験期間 | |